すべてのことが私の思惑や感情を外れている。たとえようのないはなれ業だ。艦橋は静かであり、「配置に就け」の毎日の訓練のままの姿勢であった。どこにも興奮がない。次の瞬間には歴史に絶した、世界一の殴りこみがはじまるというのに、兵の胸には自分らのこれからすることに対する武者ぶるいも生じていないのか。勇ましい動揺も覚えていないのか。魂を揺すぶられているにちがいないのに、彼らにはそれが予感できないのか。艦橋には鋼鉄と同じ性質の意志をはらんで、がっしりとかまえ、鳴りをしずめていた。(丹羽文雄氏)
『完本・太平洋戦争 海戦 ーー第一次ソロモン海戦ーー』
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