着剣の歩哨線にひっかかった。
「俺は憲兵司令官岩佐中将だ。お前らの指揮官に会いに行くのだ。ここを通してくれ」
中将と歩哨との対決である。
「駄目だ!かえれ、かえらないと撃つぞ」
司令官は、兵のこの態度に、いかりに全身をふるわせながら、
「お前達はそれでも天皇陛下の軍人か」
両頬には涙が流れていた。
この有様を後方から眺めていた下士官が、
「問答無用だ。早くかえれ!射つぞ!」
と大声でどなった。すでに一人の兵隊は重機の引金に手をかけている。傍の副官はこの緊迫した空気に、
「閣下、間違いのないうちに引返しましょう、大切な仕事が沢山あります」
副官はムリに司令官を車の中に押入れて後退した。(大谷敬二郎著『昭和憲兵史』)
『昭和史発掘』
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