「探照灯点ジアリ」
という電文が、交互に乱打されていた。
闇に機位をみうしなった「隼鷹」の未帰還機が必死になって母艦に呼びかけをおこない、「隼鷹」がそれに応えているのであった。
なお「摩耶」の暗号室である。
闇に巨体を伏せた母艦が打つ「探照灯点ジアリ」という電文が聞こえている。
が、その後も、しばらく未帰還機は、
「探照灯見エズ」
をおくりつづけた。
母艦は、明かりをつけていなかった。原則として、敵潜水艦が潜伏していると予想される海上で明かりをともすことはきびしく禁じられていた。たぶん、未帰還機の搭乗員も、そのことを知っているだろう。承知していながら、なおも助けを求めているのである。明かりが見えない、という悲痛な電文をなんどとなく打ちつづけたのち、間をおいて「万歳」という訣別の送信をおくってきた。未帰還機からの送信がぷっつりと跡切れると、電信室に重苦しい空気が流れた。
この日、二隻の空母のうち、「隼鷹」は艦爆未帰還機四、「龍驤」は零戦一をだした。
『ミッドウェー戦記』
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