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2018年6月22日金曜日

軍人の妻たる者は、いつなんどきでも

良人(おつと)の死を覚悟していなければならない。それが明日来るかもしれぬ。あさって来るかもしれぬ。いつ来てもうろたえぬ覚悟があるかと訊いたのである。麗子は立って箪笥の抽斗(ひきだし)をあけ、もっとも大切な嫁入道具として母からいただいた懐剣を、良人と同じように、黙って自分の膝の前に置いた。これでみごとな黙契が成立ち、中尉は二度と妻の覚悟をためしたりすることがなかった。
―― 三島由紀夫『憂国』

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