かれはこのとき日露戦争においてかれが出したあらゆる命令のなかで、唯一の秘密命令を出すのである。
やがて筆をとり、数行の文字を書いた。
「予に代り、児玉大将を差遣す。児玉大将のいうところは、予の言うところと心得べし」
という旨のもので、要するに児玉は総参謀長としてゆくのではなく、代理ながら総司令官としてゆくのである。この一札があるかぎり、軍隊における統帥秩序の紊乱ということは、形式上、避けられるであろう。
「しかし児玉さん、これをお使いなさるか」
と、大山はいった。
「そこは心得ています。十中八九は、使わずに済むとおもいます」
大山巌
日露戦争中、満州で。
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