―― 小松伍長に会ったのは、そのときが最後ですか。
―― ええ。軍法会議へ送られて、死刑を言渡された。
―― 自首したのに死刑ですか。
―― 罪名が敵前逃亡と奔敵ですからね。敵前逃亡だけでも死刑になる者が多かった。
―― しかし奔敵というのは。
―― これはあとで知ったことですが、投降した者はみんな奔敵になる。敵側に奔(はし)ったという意味です。負傷して巳むを得ず捕虜になった者でも、そいつは必ず味方の情報を敵に喋ったとみなされ、やはり奔敵罪で処罰される。全く無茶な話だが、負傷して動けなくなったら自爆する以外になかった。
(中略)
―― しかし、そうやって戻ってきた者を死刑にするとはひどいですね。敗戦になって、アメリカ軍に降伏した将官や佐官連中が、その後は自衛隊の幹部になったり政治家になったりししている。
(中略)
―― 小松さんは死刑の判決をうけて、すぐ銃殺されたんですか。
―― いや、これもあとで聞いたことですが、処刑される前の晩に、首を吊って死んだそうです。わたしはそのときの小松さんの気持が、よく分る気がします。口惜しくてたまらなかったに違いない。
『軍旗はためく下に』
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