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2014年1月4日土曜日

昭和十一年二月十六日の夜、憲兵隊や

警視庁に衝撃を与えた事件が起った。
《常磐(稔)少尉ハ週番中、二月十六日午後十一時、所属中隊下士官兵百五十名ニ対シ非常呼集ヲ行ヒ之ヲ引率、駈歩ニテ警視庁東側二到リ、同庁二面シテ一列横隊トナシ「斉藤」「牧野」ト連呼シ直突三回ヲ実施セリ》
「直突」(ちょくとつ)というのは着剣銃を肘の高さにあげ、剣尖を敵の心臓目がけて力いっぱい突き出すをいう。白兵戦に用いる刺突法だ。

皇道派青年将校たちは相沢事件が

起ると昂奮した。同事件でもっとも大きな刺戟と昂奮とをうけたのは青年将校たちである。
彼らは、四十七歳の相沢が永田を敢然として斬ったことに激しい感動をおぼえた。あの年寄りの相沢さんがやった、われわれ若い者がやらなければならないことを老先輩が先に実行した、申訳のないことである、相沢さんに済まない、われわれは後れをとった、こうしては居られない。――この感激が彼らをより激しく行動的な心理に駆りたてた。