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2016年11月3日木曜日

自爆する陸上攻撃機

近づくうちに、キラリキラリと敵機が切り返す時の金属の輝きが見える。「しまった、攻撃を受けているのだ」ただちに本隊を追うのを止め、右方の一個小隊を追う。
明らかに四機のグラマンが陸攻に反復攻撃を繰り返している。
……
私はいまだ射距離に追い付けなかった、もう少し、もう少しと祈るなか、ようやく近づき、少し遠いがとにかく撃とうと狙いを定める。四機のF4Fは、すでに気付いていたのか、一斉に急降下し、くもの子を散らすように避退してしまった。
私は黒煙が次第に大きくなり、チョロチョロと火を吐き出した被弾機が気になり、追撃を止めて陸攻に近づいた。見ていると、被弾機は「バアッ」と大黒煙を吐き、火は消えた。消火器のガスが利いたようだった。片エンジンでも飛べる、ほっと安心する暇もなく、ガス煙の消えた後からまたチョロチョロと赤い炎が見えた。私は右胴体に寄り添ってみるが、手の出しようがない。炎はだんだん大きくなる。消火器のガスは一度しか使えないらしい。搭乗員が四、五人窓ガラスに顔をつけるようにして手を振る。不思議と平静な様子だった。
私は機番号をしっかりとメモ帳に記入して置いたのだが、今となっては思い出すことができない。陸攻は急に大きく右旋回をすると、機首は百八十度変針、ガダルカナルに向けられた。高度は下がる火勢は強くなる。とてもガ島までは戻れまい。しかし、この場に及んで機首を敵地に向けた搭乗員たちの気持を思うと、しばらく後を追いながら涙が出て我慢できなかった。
やがて、火勢が右翼を覆うようになると、今はこれまで、と思ったか、機首を下げ、海面目がけて真っすぐに自爆の態勢に入っていった。七人の搭乗員を乗せたまま……。
『修羅の翼』
ラバウルに進出した一式陸攻

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